小型移動式クレーンが転倒し、作業者がジブに押されて墜落

発生状況

 この災害は、桟橋上に設置した小型移動式クレーンで足場用単管の束を4m下の台船に下ろそうとしたときに発生した。
 災害発生当日、港湾工事を行うため、桟橋に停泊している台船上で単管足場の組立て作業を行っていた。桟橋から台船への足場部材の揚重作業は、桟橋上に設置した小型移動式クレーン(つり上げ荷重2.32t、4本のアウトリガーを有するクローラクレーンで、通称「カニクレーン」と呼ばれるもの)で行い、作業者A~Cの3人が作業を担当した。
 午前中は、Bが移動式クレーンを運転し、AとCが玉掛けを担当して足場部材を3回に分けて台船に下ろした。昼食後に行われた4回目の揚重作業は、Aが1人で行うことになり、単管18本(重量290kg)の束を玉掛けした後、移動式クレーンを運転して、つり荷を台船の真上の位置に持って行くためジブを旋回および起伏したところ、つり荷が桟橋上に置かれた資材カゴに引っ掛かった。そこで、Aは移動式クレーンの運転を停止し、移動式クレーンの傍らの運転位置を離れて資材カゴからつり荷を外そうとしたときに、移動式クレーンが横転したため、Aはジブに押されて桟橋から台船上に墜落した。
 移動式クレーンが横転したとき、アウトリガーの張り出し状態と作業半径から定格荷重は160kgであったが、つり荷は290kgと過荷重の状態であった。また、設置場所が狭かったため、左右のアウトリガーの張り出し状態が異なっていた。なお、この移動式クレーンのアウトリガーは4隅に設けられていて、張り出し方向と張り出し幅をそれぞれ3段階で調整できるようなっていた。
 さらに、Aは玉掛け技能講習を修了していたが、小型移動式クレーンを運転するための資格(移動式クレーン運転士免許又は小型移動式クレーン運転技能講習修了)は持っていなかった。

原因

 この災害の原因として、次のようなことが考えられる。
1 つり荷を移動中に過荷重になったこと
 移動式クレーンが横転したときのつり荷の重量は290kgであったが、アウトリガーの張り出し状態と作業半径から定格荷重は160kgであり、過荷重となっていた。さらに、アウトリガーの張り出し状態が左右で異なっていたため、横転しやすくなっていた。
2 資格がない者に移動式クレーンを運転させたこと
 小型移動式クレーンを運転するための資格の有無を確認しないまま、資格がない者に小型移動式クレーンを運転させた。
3 1人作業であったこと
 つり荷を玉掛けし、周囲の状態を確認しながら移動式クレーンを運転する作業を1人の作業者に行わせていた

対策

 同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 移動式クレーンの定格荷重を超える荷をつり上げないこと
 移動式クレーンを用いて作業を行うときは、作業計画、移動式クレーンの設置場所とその周囲の状況から定格荷重をあらかじめ確認しておき、定格荷重を超える荷をつり上げないようにする。さらに、アウトリガーの張り出しを左右同じにし、移動式クレーンを安定した状態で使用することも重要である。
2 移動式クレーンは資格のある者に運転させること
 移動式クレーンは、その能力(つり上げ荷重)に応じた資格を有する作業者に運転させなければならない。つり上げ荷重が1t以上5t未満の小型移動式クレーンについては、移動式クレーン運転士免許を受けた者または小型移動式クレーン運転技能講習を修了した者に運転させる必要がある。
3 移動式クレーン作業は2人以上の作業者に行わせること
 移動式クレーンによる荷の移動作業では、移動式クレーンを運転する作業者1人、荷の玉掛けとつり荷の確認を行う作業者1人のほか、必要に応じ監視人等を配置し、周囲の安全にも注意しながら作業を行わせる。

5階建て新築工事において、資材の荷揚げ作業準備中に移動式クレーン(つり上げ荷重45t)が転倒

発生状況

 本災害は、鉄筋コンクリート造5階建て新築工事において、資材の荷揚げ作業開始前に発生した移動式クレーン(つり上げ荷重45t)の転倒事故である。資材の荷揚げ荷下ろし作業を請負った一次下請業者が引き起こしたものである。
 移動式クレーン転倒防止のためアウトリガおよびフロントジャッキの敷角として角材(木材)をそれぞれ2個ずつ敷こうとした。しかし、車体右後方の分1個が不足したため、代わりにバタ角4本(木材)を井の字型に組み合わせ敷設した。その後、荷揚げ準備開始の合図を受けて、ブームを下ろした。ブーム傾斜角度を50度まで下げたところ過負荷防止装置によりブームが自動停止し、移動式クレーンは転倒した。災害発生後の調査によると、車体右後方のアウトリガの下に敷角として使用していたバタ角が破損していたのが判明した。
 建物等の損壊はなく、物的損害は転倒した移動式クレーンの破損のみであった。なお、事故発生時の天候は晴れ、ほぼ無風であった。

原因

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
 事故発生の直接的原因としては、移動式クレーンのアウトリガの下に強度不十分なバタ角を敷いたため、そのバタ角(高さ20cm、幅20cm)が折損したことがあげられる。バタ角が折損し、その厚さ(20cm)だけ移動式クレーンが落下したことより、移動式クレーンが転倒した。また、つり上げようとしていた型枠材は、移動式クレーン設置位置の後方36.3mの箇所に仮置きされていた。移動式クレーンの最大作業半径は32.65mであり、実際には、つり上げることはできない位置に設置されていた。このため、クレーン運転手は無理にブームを下げたおそれがある。
 一方、間接的原因としては、元方事業者が移動式クレーンを使用する作業に関し移動式クレーンの配置および転倒防止に関する計画を作成していないこと、この移動式クレーンの運転手は新規入場者教育を受けていなかったことなどがあげられる。

対策

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
 移動式クレーンを設置する場合、十分な広さおよび強度を有する鉄板等を敷設し、その上に移動式クレーンのアウトリガおよびフロントジャッキを張り出して作業を行うこと。また、事前に移動式クレーンの種類に応じた移動式クレーンの転倒防止方法を検討する。作業開始前、それを基に、荷揚げする資材等と移動式クレーンの設置位置の関係、荷揚げ作業の作業手順等を関係者で確認することもあげられる。
 さらに、元方事業者は移動式クレーンの転倒防止およびその配置に関する計画を作成し、この計画に基づき、新規入場者教育を実施し、適切な転倒防止措置を講じるよう関係請負人および関係請負人の労働者に必要な指導をすることもあげられる。

橋台用の型枠を吊り上げ中に墜落

発生状況

 この災害は、国道新設工事のうち橋台の建造作業中に発生したものである。
 この工事は、2つの橋台と1つの橋脚で構成される橋梁を建設するものであるが、災害は橋台の型枠組立に付随する型枠の荷上げ作業中に発生した。
 前日までに橋台の型枠7段目までのコンクリート打設が終了しており、災害発生当日は、被災者の会社から世話役を含め9人の作業員、それにオペレーター付の移動式クレーン(25t)で朝から型枠の組立作業が行われ、午前中には8段目と9段目の鉄筋組立てと型枠の取付けが終了した。
 午後は、最後の10段目の型枠取り付け作業を行うことになり、被災者は地上で型枠の束の玉掛けをして足場に昇り、移動式クレーンの運転士に合図をして荷の取込み、玉外しを行っていたが、型枠6枚を束にして吊り上げたところ、風で荷振れしたので、再度地上に降り、6枚束を2組にして玉掛けをしたのち足場(高さ約13m)に昇り、合図して吊り上げたところ、型枠で被災者の姿が運転士の視界から一瞬消えたときに、足場上から転落し、肺挫傷、大腿骨骨折などにより同日中に死亡した。

原因

 この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1   風が強い中で作業を強行したこと
   午後の作業を開始したときには、山間部でもあり、かなりの風が吹いていたので移動式クレーン運転士が「無理だから止めよう」と再三言ったのに、被災者が「大丈夫」と言って、荷振れを止めるため型枠を倍にして吊り上げさせるなど作業を強行したことが原因の一つである。なお、現場付近の風速は、4~5m/秒と推定される。
2   墜落防止措置が不十分なまま荷の取り込み作業を行ったこと
   墜落直前の被災者の動作の目撃者はいないが、被災者の立っていた足場には92cmの高さにパイプ手すりが取付けられていたので、通常の状態では墜落することが考えられないので、足場の高さに来た型枠を手で取り込もうとしたときに、手すりを乗り越えたか、手すりと足場の作業床との間から墜落したものと推定される。
   なお、被災者は、命綱は着帯していたが、使用はしていなかった
3   安全管理を行っていなかったこと
   朝のミーティングで現場責任者から「風が強いから気をつけるように」との注意があったが、作業が開始されてからのち、現場の状況を見ながら適切な指示などは行われていなかった。
   また、被災者は、大工職であり、玉掛けの資格者ではないのに、玉掛け・玉外しの作業を行わせるなど安全管理を行っていなかった。

対策

 同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要と考えられる。

1   風の強いときには荷上げ作業を行わないこと
   10分間の平均風速が10mを超える場合には移動式クレーンによる作業は禁じられている(クレーン則第74条の3)が、それ以下の風速であっても荷振れ等を増幅するおそれがあるので、現場責任者はその時々の状況を判断し、作業の中止などを命ずることが必要である。
2   無資格者に玉掛け作業を行わせないこと
   吊り上げ荷重が1t以上の移動式クレーン等の玉掛け作業は有資格者でなければできないことになっているので、そのような作業の場合には必ず有資格者を配置しなければならない。
3   墜落防止措置を講ずること
   作業床と手すりとの間隔が90cmもあるときには、中間に中さんを取り付けること、又は命綱を取り付けて確実な墜落防止を行うことが必要である。
4   安全管理を徹底すること
   現場責任者は、ミーティング等において抽象的な注意を行うだけではなく、具体的に指示をするとともに、作業状況をチェックし、作業中止などの適切な指示を行うことが必要である。
   また、あらかじめ、作業に必要な人員、資格者の配置を行うとともに、作業方法・手順を明確に定め指示することが必要である。

ドラグ・ショベルで鋼管束を荷下ろし作業中、ベルトスリングが切断

発生状況

 この災害は、道路整備工事現場において、車両積載型トラッククレーンからドラグ・ショベルで鋼管の束を下ろす作業中に発生したものである。
 災害発生当日、工事現場では、谷側の土止め、作業用道路等を整備することになっており、ダンプトラックとクレーンを使用して、型枠、鋼管を資材置場から工事現場に運搬し、搬入する作業を行っていた。
 荷下ろし作業は、当初の計画では、荷を運搬してきたトラッククレーンを使用する予定であったが、現場の地盤が軟弱なためトラッククレーンを荷下ろしする場所に接近させることができなかったため、現場で使用していたドラグ・ショベルで荷下ろし作業を行うこととした。
 そこで、鋼管束を両端アイ形のベルトスリングで1本吊りとし、ドラグ・ショベルのバケットに取り付けたフックに掛けて吊り上げて旋回したところ、ベルトスリングが切断し吊り荷が落下し、近くで道具小屋の建築作業に従事していた被災者が、落下した鋼管束の下敷きとなって死亡した。
 なお、ベルトスリングは事故後の調査で、一部に損傷が見られた。

原因

 この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 鋼管をトラッククレーンで運んできたにもかかわらず、そのクレーンを使用せずにドラグ・ショベルを使用したこと
2 ドラグ・ショベルによる荷の吊り上げ、運搬作業の方法について事前の検討が不十分で、適切な作業計画も作成されていなかったこと
3 ドラグ・ショベルの旋回範囲内に作業者が立ち入ることを禁止するための具体的措置を講じていなかったこと
4 ベルトスリングの1本が鋼管に挟まって取り出すことが出来なくなったために、残りのベルトスリングで荷を1本吊りで玉掛けして作業を続行したこと
5 ベルトスリングの点検が適切に実施されていなかったこと
6 安全管理体制が確立されていなくて、安全管理が不十分であったこと
7 作業者の安全意識が低調で、危険区域への立入禁止を指示されていたにもかかわらず、指示に従わなかったこと

対策

 同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 荷下ろし作業には、作業の性質上やむを得ない場合を除きクレーンを使用すること
2 荷の積み下ろし作業を行う場合には、吊り荷の下方に作業者の立ち入りを禁止するための措置を講じること
3 荷の積み下ろし作業方法については、作業の開始前にその安全性について十分な検討を行って決定すること
4 吊り具には、十分な強度を有するものを選定するとともに、所要の安全率(ベルトスリングの場合5以上)を確保すること
5 機械設備等は日常点検および定期点検を適切に実施すること
 ベルトスリング等の吊り具については、点検・検査方法と廃棄基準を設けるとともに、管理責任者を定めて、定期検査を実施し、使用開始時期、点検検査結果が判るように台帳管理を行うとともに、使用頻度等を勘案して廃棄等の管理を行うことが必要である。
6 安全管理体制を整備するとともに、作業者に対して安全衛生教育を徹底すること

移動吊支保工の組み立て段取り作業中、型枠トラス梁を吊っていたワイヤーが切断

発生状況

この災害は、自動車PC橋架設の上部工事中に発生したものである。
 この工事は、移動吊支保工式架設工法(以下「支保工」という)により施工するもので、当日は、支保工を橋脚から橋脚へ前進させ、支持台に固定し、型枠トラス梁2本を一組に組立てる作業を行うことになっていた。
 組み立て方法は、メインガーターからチェーンで片側だけをつり下げている2本一組の型枠トラス梁を、2.8トンのホイストクレーン4台で同時に吊上げていくもので、左右の型枠トラス梁が密着し水平になった後、中央の連結部をピンとボルトで一体化するものである。
 これらの作業を繰り返し、8組目の型枠トラス梁が、ほぼ水平になり、連結部をピン及びボルトの孔が合致する状態になったので、クレーンによる巻き上げを止め、連結部にピンを差し込む段取り作業を始めた。
 そこで被災者が、トラス梁の中央部で段度作業を行っていたところ、載っていたトラス梁を吊っていたワイヤー2本がほぼ同時に切断した。
 そのため、外側の吊りチェーンを支点として型枠トラスが下方に落ちて、載っていた被災者は約16メートル墜落した。

原因

この災害は、自動車PC橋架設の上部工事中に、被災者が段取り作業のために載っていた型枠トラスの吊りワイヤーが切断したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
1 2本のワイヤーのうち、いずれが先に切断したのかは特定できないが、切断部の状況、ワイヤーの損傷状況、6ヶ所の支持点のうち最も荷重のかかるのが切断したワイヤーであること等から推定するとこのワイヤーが先に切断したものと考えられる。
2 切断した12ミリワイヤーにかかる荷重は、吊り角度を考慮すると、最大時で2.73トンとなる。
 ワイヤーが新品の場合には、切断荷重が7.24トンであるが、繰り返し使用されているため、2.73トン前後の荷重に耐えられなかったのに、被災者が型枠トラスに乗り込んだ衝撃荷重が加わったものと推定される。
3 事故後の調査では、切断したワイヤーの点検が十分に行われていなかった

対策

1 新規の移動吊支保工工法で施工する場合は、計画段階で危険性の評価及び安全対策の検討を十分行うこと。
2 玉掛け用ワイヤロープの取り替え時期等が遅わないように、明確な廃棄基準・点検時期及び点検者を定め、点検の実施結果を記録する等点検体制の徹底を図ること。
3 玉掛用具の点検者等に対して、その日の作業開始する前の点検は勿論のこと、作業の実態に応じた点検回数、点検事項について、適切に行うことが出来るよう教育を行うこと。
4 玉掛用具の使用にあたっては、極端な曲げや鋭角なものと直接接触する吊り方等は、ワイヤロープの強度を低下させるだけでなく、その使用頻度によっては、切断することもありうるので行わせないこと。
5 連結作業時における安全な作業手順等を定め、責任者はそれを関係者に周知し、それを遵守させること。

トラッククレーンが横転し、挟まれる

発生状況

事故が発生した当日の作業は、地上から地下駐車場に通じる自転車・歩行者用通路のコンクリート打設を行うための型枠建て込みの作業で、作業者6名のうち3名が共同して国道側の通路壁型枠を起こす作業を行い、他の3名が壁型枠に補強用の角鋼管を取り付ける作業を行っていた。
 午後に入り、壁型枠を起こす作業を行っていた被災者(無資格者)は、地上部分に上がり、型枠材料を現場に搬入するため止めてあったトラッククレーンを、右側のアウトリガーのみを最大張出の状態で操作した。
 束ねた角鋼管(長さ:3.5mの角鋼管×50本、重量0.72トン)を地下通路部分につり降ろそうと、被災者自身が玉掛し、ジブを車両後方から右側方に旋回したところ、過荷重のためトラッククレーンが右に大きく傾いた。
 車両の右側でトラッククレーンの操作を行っていた被災者は、トラッククレーンのアウトリガーと鋼管で組み立てたフェンスに挟まれ被災したものである。なお、災害発生時のトラッククレーンの状態は、作業半径約7.6m、ジブの長さ約8.1m、ジブの傾斜角約20度であり、定格荷重は約0.3トンとなっていた。

原因

(1) つり荷の重量がトラッククレーンの能力に比較して大幅に上回っていたこと。
(2) 作業方法をあらかじめ決定していなかったこと。
(3) 無資格でトラッククレーンの操作を行っていたこと。

対策

(1) トラッククレーンにその定格荷重を超える荷重をかけて使用しないこと。
(2) トラッククレーンを用いて作業を行う際には、あらかじめ作業の方法を定めること。
(3) トラッククレーンを用いて作業を行うときには、当該トラッククレーンの能力に応じた資格を有する者に作業を行わせること。