住宅建築工事における熱中症

発生状況

本災害は、住宅新築工事において、コンクリート打設作業を行っていた作業者が、熱中症による多臓器不全のため死亡に至ったものである。
 災害発生当日、作業者Aは、午前8時30分頃から、もう1人の作業者Bとともに当該工事現場においてコンクリートの打設を行うため型枠組立て作業を行っていた。そして午後3時頃になって、作業者Cの運転するコンクリートミキサー車が到着し、完成した型枠へのコンクリート打設作業に取りかかった。この時、Bは人力車でコンクリートを運び、そしてそれを型枠内に流し込む作業を行ない、一方Aは、その流し込まれたコンクリートをコテでならす作業を行なった。
 当該作業を始めて30分程度経った頃、Aは型枠上に腰を降ろした。CがAに向かって声をかけると、急にAは型枠横に仰向けになってずるずると倒れてしまった。驚いたCは急いで救急車を呼び、また隣家に住む施主Dも知らせを聞いて駆け付け、日傘で日陰を作ったりAの頭を氷水で冷したりした。そしてAは救急車で病院へ運ばれたが、2週間後死亡した。
 その日は快晴であり非常に暑く、気象台によると午後3時の時点で気温は35.6℃(相対湿度50%、風速4m/s)であった。当該工事現場においては、飲料水は確保できる状態にあったが塩等はなく、またその現場は基礎工事が終わったばかりで屋根等もなく、太陽の日差しを避ける日陰の場所はなかった。なお、その日Aは、ランニングシャツと作業ズボンを着用し、ヘルメットはかぶっていなかった。

原因

[1] 日差しが強くかつ暑い場所における作業にもかかわらず、休憩等ができる日陰の場所が確保されていなかったこと。またヘルメットも着用していなかったこと。
[2] 作業者の健康状態の確認が行われていなかった

対策

[1] 作業場所またはその近くに日陰の場所を確保し、作業者が適宜そこで休憩できるようにすること。また作業者は、日よけの観点からもヘルメットおよび作業着等の服を着用し、適度の水分および塩分を摂取すること。
[2] 作業開始前に作業者の健康状態を確認し、必要に応じて当該作業者の行う作業の変更等をすること。
[3] 作業場が高温または多湿になる場合には、日中の作業量を減らすなど作業計画を工夫すること。

屋外作業中に発生した熱中症

発生状況

株式会社Aは、アンカーに緊張力を与えた場合の法枠に生ずる歪み等を計測調査するための試験施設の工事を請負っていた。
 災害が発生した日は、7月下旬の暑い日であり、被災者甲を含む作業者は、その日、現場で打ち合せを行った後、午前9時ごろから作業を開始した。
 作業場所は、北西向き傾斜34度の斜面であり、その傾面に設置された金網型枠にコンクリートを吹き付けた箇所をコテを使用して、表面をならして仕上げる作業であった。
 作業者甲と乙は、南側から作業を開始し、午後4時頃にコンクリートの吹き付け作業が終了した箇所のコテならし作業を行っていたが、作業者甲が、突然座りこんで、「気分が悪くなった」という異常を訴えた。そこで作業者乙は、顔を洗いに行った時に使った濡れタオルを持っていたので、それを作業者甲のヘルメットをとってから、頭にあて冷やしてやった。
 しばらくして、作業者甲の異常を知った職長が来た時に、「目がまわり、頭がクラクラする」と訴えており、歩ける様子ではなかったので、背負って約6mの斜面を降りた。日陰になっている場所で休ませ、飲料水を飲ませたが、一口二口飲んだだけであった。この時作業者甲の顔色は青白く、汗はかいていなかった。そのうち目をつむったまま、うわごとを言いはじめたので救急車を呼び、到着するまでの間、タオルで腕と頭を冷やしていた。
 救急車は、まもなく到着し、作業者甲は近くの病院へ収容されたが、死亡した。

原因

[1] 災害が発生した日は夏の快晴であり、作業が行われた場所は斜面で、作業時間中はずっと直射日光が当たり、日陰になる場所は全くなかったこと
[2] 被災者が作業を行っていた斜面のすぐ下の変電設備の日陰にあった寒暖計は最高40℃近くまで上っており、作業が行われていた間、風はほとんど吹いていなかったこと。

対策

[1] 炎天下作業では、休憩時間、回数を多くし、連続作業時間及び、直射日光にさらされる時間を短縮すること。
[2] 管理監督者による作業者の個別的かつ継続的な健康状態の把握を行い、異常者の早期発見に努めること。
[3] 日陰場所、水分、塩分を十分に確保しておくこと。
[4] 暑さに応じた作業衣等を選び、体温の上昇をおさえること。
[5] 熱中症についての正確な知識及び救急対策について教育を行うこと。
 さらに、熱中症の発生するおそれのある作業においては、その初期症状に注意することがきわめて重要である。
 具体的に述べると、
 高温条件下の作業に従事していて、盛んに発汗していたのが、急に汗の量が減った場合、熱中症の危険がせまっていることになる。また、体温の上昇や脈拍の増加も有効な所見となる。

真夏の木造家屋建築工事現場にて、作業に従事していたところ、休憩中にふらつき、ろれつが回らなくなり、痙攣し始めた

発生状況

 被災者は、朝方より木造家屋建築工事現場で家屋の基礎の型枠材の加工、組み立て作業に従事していた。休憩は、1時間に1回(50分労働の後、10分の休憩)、昼休憩は12時から13時まで、午後も1時間に1回の休憩をとっていた。
 夕方の休憩時、被災者がふらふらし始めたので、頭に水をかけて冷やした。しかし、その後ろれつが回らなくなり、痙攣を起こしたので、空のポリタンクを枕にして寝かせた。
 それでも回復する兆しがなかったので、救急車の出動を要請したが、搬送された後「熱射病による多臓器不全」により死亡した。

原因

 この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 高温下での作業であったこと。
2 監督者による水分、塩分の摂取量が把握されていなかったこと。
3 休憩時間における遮光されている場所がなかったことに加え、被災者の作業衣も保熱し易く、熱中症対策が十分でなかったこと。
4 熱中症予防のための指標であるWBGT(Wet-bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)値の測定を行っていなかったこと。
5 ろれつが回らない状態である時は、直ちに救急要請を行う等、熱中症に関する安全衛生教育が不十分であったこと。
6 元請による作業場所の巡視が、3日に一回程度と少ない頻度であったこと。

対策

 類似災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 監督者は、水分、塩分の定期的な摂取の程度を把握し、不足する場合は摂取させること。
2 作業場所又はその近傍に、臥床することができる冷房を備えた休憩所、又は日陰等の涼しい休憩場所を確保し、また、冷たいおしぼり等身体を適度に冷やすための、物品及び設備を設けること。
3 熱を吸収し、保熱し易い服装は避け、通気性、透湿性の良い服装、及び通気性の良い帽子等を着用させること。
4 作業の休止時間、及び休憩時間を確保し、高温多湿作業場所の作業を連続して行う時間を短縮すること。また、作業の状況に応じ、身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避け、作業場所を変更するなどの対策を実施すること。
5 熱中症の症状、予防方法、応急処置等について、労働者、作業を管理する者並びに関係請負人に、安全衛生教育を実施すること。
6 WBGT予報値、熱中症情報を事前確認のうえ、実際にWBGT値を測定し、身体作業強度の区分に応じた作業となるよう活用すること。14時から17時の炎天下等でWBGT値が基準を大幅に超える場合は、連続作業時間及び作業時間を短縮し、長めの休憩時間を設ける等、作業時間の見直しを行うこと。
7 監督者の現場巡回回数を増やし、上記の措置を講じること。