建築中のマンションの地下ピットに入り酸素欠乏症となる

発生状況

 この災害は、大型マンションのバイク置場となる地下ピットの型枠解体作業中に発生したものである。
 被災者の所属する会社は、コンクリートのはつり、型枠の解体を業としており、この建設工事では型枠解体の作業があるときだけ現場に入っていた。
 災害発生当日は、コンクリートを打設した後、約4か月間放置してあったバイク置場となるピットの型枠を解体することになり、朝から5名が作業に着手した。
 このピット(ダメ穴)は、雨水が入ることを防ぐためスラブ型枠材で密閉してあったので、まずピットに入るためダメ穴部の鉄筋を切断して曲げ、次いでベニヤ板を鉄パイプで突き破りピット内を投光器で照らして中に入った。
 次いで、ピット外に居た作業者Bがピット内に入った作業者Aに投光器を渡そうと投光器を中に入れたが、受け取ろうとしないのでおかしいと思いピット内をのぞいたところ、作業者Aが壁に寄りかかるように倒れていた。
 これを見た作業者Bは、ピット内に水が溜まっており、作業には電動サンダー等を使用することから漏電で感電したと思い、他のピットにポンプを入れる準備をしていた別の作業者に電源を切り、また、作業者Aを救出するため他の作業者を呼ぶように依頼した。
 そして、作業者Bは、作業者Aを救出するためピット内に入ったが自分もピット内で意識を失って倒れた。
 その後、2人は救出されて病院に移送されたが、低酸素脳症のため作業者Aは2か月、作業者Bは1日の休業となった。

原因

 この災害は大型マンションのバイク置場となる地下ピットの型枠解体作業中に発生したものであるが、その災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1 ピット内が酸素欠乏危険場所になっていたこと
ピットは4か月にわたり密閉され、しかも雨水が滞留していたため酸素欠乏危険場所となっていた。
 なお、消防署員が被災者らを救出後、ピット内の酸素濃度を測定したところ12.9%であった。
2 酸素欠乏危険について認識がなかったこと
被災した2人の作業者は、作業のためにピットに入る前に酸素濃度の測定をせず、また、ピット内の換気も行わないままピット内での作業および救助を行った。
3 安全衛生管理が不十分であったこと
 この建築工事は、大規模でかなり長期間に亘って実施されていて災害が発生した地下ピットのようにコンクリートを打設したのち密閉した状態で放置している場所もあったのに、元方事業者をはじめとして酸素欠乏危険のおそれがあることを誰も意識していなかった。
 そのため、密閉されていたピット内での作業に先立って酸素濃度の測定や換気等を実施していなかった。

対策

 同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 作業開始前に酸素濃度等を測定すること
長期間密閉しているピット内で雨水等が滞留している個所で作業を行う場合には、その日の作業開始前に酸素濃度、炭酸ガス濃度、硫化水素濃度等を測定し、作業個所の安全を充分に確認したうえで作業を指示する。(酸欠則第3条関連)
2 換気を十分に行うこと
 酸素欠乏危険場所で作業を行わせる場合には、作業場所の酸素濃度を18%以上(硫化水素の発生がある場合には10ppm以下)に保つよう十分に換気する。(酸欠則第5条関連)
3 作業主任者を選任して次の職務を履行させること
 (1)作業の方法を決定し、労働者を指揮すること
 (2)作業開始前、再び作業を開始する前に酸素濃度を測定すること
 (3)測定器具、換気装置、空気呼吸器等を点検すること
 (4)空気呼吸器等の使用状況を監視すること
4 酸素欠乏危険について教育を実施すること
 労働者に対しては、あらかじめ酸素欠乏症等の危険およびその防止対策について特別教育を実施する。(酸欠則第12条関連)
5 安全衛生管理を行うこと
 事業者および特定元方事業者は、酸素欠乏等の危険の有無についてあらかじめ検討を行うとともに、その防止対策、教育実施等について十分に安全衛生管理を実施する。(安衛法第30条関連)

換気口内地下ピットに溜まった雨水を内燃機関付ポンプで廃水作業中、一酸化炭素中毒

発生状況

 この災害は、ピットに溜まった雨水の排水作業中に、使用したガソリンエンジン付ポンプの排気ガスにより一酸化炭素中毒が発生したものである。
 当日の作業は、ドライエリアと呼ばれる地下換気口内のピットに溜まっていた雨水をガソリンエンジン付ポンプで屋外に排水するものであった。このドライエリアは、開口部は縦約5m、横約2m、深さ約9.5m、地下約4.5mのところに平らな中段があり、その下に更に開口部縦約0.6m横約0.9mの入口を持った最下層の空洞部分、いわゆるピットにつながっている。
 Aは同僚と二人で、午前8時半頃からドライエリア内の型枠片付け及びピット内の雨水の排水作業を行うこととなった。まず、雨水を排水するためドライエリア内に持ち込まれていたガソリンエンジン付ポンプで作業を開始した。ところが、雨水が思ったよりも多いため、もう一台をピット内に持ち込んで作業を行うことになり、同僚を他のベテラン作業員Bと交代させて、AとBは10時半に作業を開始した。
 その後、昼食時になっても2人が事務所に戻らないため、同僚のCがドライエリア内を探したところA及びBは、深さ約9.5mの最下層ピットで倒れていた。そこでCは、近くにいた作業員に声をかけ、7人で救出作業を行ったが、次々と全員が具合が悪くなった。

原因

 この災害の原因としては次のようなことが考えられる。
1 ドライエリア内が十分な広さでないにもかかわらず、作業能率だけを考えて排水ポンプを一台から二台に増設して作業を行ったこと
2 非常に狭いピット内に、ガソリンエンジン付ポンプを持ち込んで作業を行ったこと
3 換気装置を設置するなどピット内の換気をしないで、ガソリンエンジン付ポンプを使用したこと
4 作業開始前に、酸素濃度測定が行われていなかったこと
5 作業者に対して、当日の作業を考えた安全教育が実施されていなかったこと
6 救助方法等に対する対策が、全く行われていなかったこと
7 朝礼がマンネリ化していて、十分な危険予知が行われていなかったこと
8 作業方法の変更についての指示系統が、はっきりしていなかったこと
9 作業員の交替を行ったにもかかわらず、この作業員に対して安全作業について指示を行っていなかったこと

対策

 この災害は、新築工事現場内の換気口内ピットの排水作業中、使用したガソリンエンジン付ポンプによる一酸化炭素中毒により災害が発生したものであるが、同種災害の防止のためには次のような対策の徹底が必要と考えられる。
1 自然換気が不十分な場所においては、ガソリンエンジン付ポンプを使用せず、電気による水中ポンプを使用すること。
2 ガソリンエンジン付ポンプはレンタルであったが、作業方法を検討してポンプの種類を選定すること。
 ガソリンエンジン付ポンプは、自吹式エンジンポンプ(最大揚程34m、最大揚水量550l/min、所要動力3.5ps/3600rpm)であった。
3 やむを得ず、内燃機関付ポンプを使用する場合は、送風機等により内部の換気を十分行うこと。
4 作業指示は、事前に作業計画を立て、具体的な作業指示をすること。
5 作業者に対する安全衛生教育を実施し、作業における危険認識・安全意識の高揚を図ること。
6 作業員の判断で作業方法を変更する場合は、届出を行わせること。
7 ピット内等狭い場所は、酸素濃度測定など酸素欠乏症対策を行うこと。

倉庫新築現場における練炭使用による一酸化炭素中毒

発生状況

本災害は、コンクリート打設後練炭コンロで養生した防火水槽の内部に入り型枠支保工の解体作業を開始したところ被災したものである。
 災害の発生場所は倉庫の地下にあるコンクリート製防火水槽部分である。災害当日コンクリート打設後スラブ全体にかけられていたシートを取り外し練炭を取り出した。その後倉庫の基礎立ち上がり部分のコンクリートを打設後、防火水槽内部の型枠支保工の解体作業を行った。作業は、2名が防火水槽の内部に入りパイプサポートを取り外し、防火水槽の外で他の2名がそれを受け取るというものであった。作業開始20分後に、内部に入った1名が膝を落としてうずくまり、防火水槽の外で作業していた作業監視員を含む3人で救出したが、内部に入っていたもう1名も体の不調を訴えだした。救出後2名ともに意識がなく、病院へ搬送され一酸化炭素中毒と診断された。両名とも意識は回復し、翌日退院した。

原因

[1] 一酸化炭素による健康障害が生ずるおそれのある自然換気の不十分な場所である防火水槽内において、作業開始前に酸素濃度や一酸化炭素濃度の測定を行わなかったこと。
[2] 呼吸用保護具を着用していなかったこと。
[3] 一酸化炭素の危険有害性の認識が低かったこと。

対策

[1] 練炭等を使用する場合において、充分換気してから作業者を立ち入らせること。
[2] 酸素濃度、一酸化炭素濃度などの測定を行い、安全を確認してから立ち入ること。
[3] 一酸化炭素中毒が発生するおそれのある場所に立ち入る際は、適切な呼吸用保護具を着用すること。
[4] 一酸化炭素の危険有害性の認識を高めるため、十分な安全衛生教育を行うこと。

建築工事現場におけるピット内での酸素欠乏症

発生状況

本災害は、建築工場現場の地下ピット内の型枠解体作業を行うため、溜まっていた水をポンプで汲み出しながら作業の準備をしていたところ、ピット内の酸欠空気により被災したものであり、これを救助しようとした事業主も被災したものである。
 災害発生当日、被災者Aと事業主Bはピットの型枠解体作業にとりかかるためピットの蓋を開けたところ、ピット内に水が溜まっていたので揚水ポンプにより水を汲み出していた。
 10分程経過した後、ピット内部に溜まっていた水が減ってきたため、Aは型枠解体作業を開始しようとピットの口にはしごをかけてピット内に降りた。このとき、Bは地上にいて、作業に必要な工具などの準備をしていた。
 Bがピットの中を見ると、Aはピットの底の溝になっている部分に腰を掛けた状態で動けなくなっていた。Bは地上からAにピットから上がるように指示したが、自力で上がることができそうもなかったため、救出しようとピット内に降りたところ、同様に被災した。
 災害の発生したピットは、コンクリート打設養生のため、梅雨の季節に約2カ月間放置され、雨水が滞留しており、好気性菌による酸素欠乏状態であったと推測される。

原因

本災害は、作業を行う者に当該ピット内部分が酸素欠乏危険場所であるという認識がなかったことが、災害の発生を招いたと考えられる。そのため、作業を開始する際に、作業の危険性について関係者間での十分な連絡調整を図ることが重要である。関係者に酸素欠乏の発生の原因や発生しやすい場所及びその危険性等の知識があれば、酸素欠乏危険作業主任者の選任や酸素濃度の測定の実施などの対策が講じられ、災害の防止ができたものと考えられる。

対策

[1] 作業を開始する前に、当該場所の空気中の酸素濃度を測定すること。
[2] 当該場所の酸素濃度を18%以上に保つように換気を行うこと。
[3] 酸素欠乏危険作業主任者を選任し、所定の職務を行わせること。
[4] 作業従事者に対して、酸素欠乏症にかかる特別教育を行うこと。
[5] 緊急時の対応として、呼吸用保護具を使用すること。

防火水槽新設工事において練炭を用いたコンクリート養生箇所に立ち入り、一酸化炭素中毒となる

発生状況

本災害は、防火水槽新設工事において、練炭を用いたコンクリート養生を行っていたが、それとは知らずにコンクリート型枠解体作業を行おうと防火水槽内に入り、練炭の不完全燃焼によって発生した一酸化炭素を吸入し、被災したものである。
 この防火水槽新設工事は、床堀り、配筋、型枠組立、コンクリート打設、型枠解体等の工程で行われた。この工事が行われたのは寒冷地であったため、コンクリートが固まるまで十分な保温養生が必要であった。このため、コンクリート打設後、開口部をビニールで閉じ練炭を用いて保温養生を行い、養生開始日から1週間目に型枠解体作業にとりかかった。
 この工事を行っていた事業場は従業員が少なかったため、型枠解体作業は、急遽この事業場とは別の事業場で請け負うことになった。
 型枠解体作業を請け負った事業場の作業者は、作業開始に当たって、元請けの現場監督から練炭養生をしていることは告げられていなかった。
 まず入口を覆っていたビニールを外し、1名の作業者が作業用はしごを伝って水槽内に入ったところ直ちにうずくまってしまった。
 他2名の作業者が救出のため水槽内に入ったところ同様に次々倒れた。その後この3名は病院に運ばれ、一酸化炭素中毒と診断された。
 なお、呼吸用保護具および送風機等の換気装置は、元請け、下請けとも所持しておらず、水槽内で作業を行うに際し、酸素濃度および一酸化炭素濃度の測定を行っていなかった。

原因

[1] 水槽内で、練炭が不完全燃焼したこと。
[2] 水槽内で練炭を使用していることを事前に作業者に周知していなかったこと。
[3] 水槽内の一酸化炭素濃度について測定する等、安全確認をしなかったこと。
[4] 水槽内の換気を十分行うことなく、いきなり作業者を立ち入らせたこと。
[5] 被災者救出の際、適切な呼吸用保護具を使用しなかったこと。

対策

[1] 練炭等燃焼ガスの中に一酸化炭素が含まれているものに関しては、一酸化炭素中毒を含む酸素欠乏による危険性について、関係作業者に十分な安全衛生教育を行うこと。
[2] 練炭を使用し、燃焼させた場所には、一酸化炭素中毒の危険性がある場所であることを表示すること。
[3] 水槽内に立ち入る際は、事前に十分な換気を行い、かつ、水槽内の一酸化炭素等の濃度測定を行うことにより、一酸化炭素中毒の危険がないことを確認すること。また、必要に応じて適切な呼吸用保護具を使用すること。

配管ピット内における酸素欠乏症

発生状況

本災害は、工場新築工事において、既にコンクリートを打設し終わったトイレ用配管ピットの型枠解体作業において、作業者が型枠解体のためピット内に立ち入ったところ、酸素欠乏症により倒れたものである。
 災害発生当日、午前8時からの全体朝礼の後、職長Aが、当日の作業として1階女子トイレの配管ピットの型枠解体作業を行う旨を説明した。
 引き続いて、作業開始。まず、ピット内の様子を確認するため作業者Bがピット内に入ったが、変わった臭気を感じたのですぐ息を止めて外へ出た。
 そこで、Bは元請の作業者Cを呼び、送風機を持って来るよう依頼したが、それによる換気を待たず再びピット内に入った。そして、やはり臭気を感じ、急いで息を止めて、かろうじて外へ出た。その後、しばらく休息していたものの、次第に頭痛、吐き気がひどくなり、救急車で病院に運ばれ診断を受けたところ、酸素欠乏症と診断され、30日程度の休業を要するに至った。
 災害発生後、現場を調査したところ、ピット内は湿度が非常に高く、カビ臭があり、床、壁等には水滴が付着していた。また、型枠はかなりの湿気を含んでおり、随所で腐食し、菌類が発生していた。硫化水素濃度は、酸欠則に規定する10ppmを超えていなかったが、酸素濃度は16%程度であった。
 これらのことから、ピット内に酸素欠乏空気が発生した原因は、コンクリートの打設以来ほとんど密閉された状態が4カ月ほど続いており、また季節が夏ということで、連日の暑さにより、しみ込んだ雨水などに含まれる有機物が腐敗したり、菌類が発生したりすることにより、酸素が消費されたためと考えられる。
 なお、本災害が発生したピット内部は、労働安全衛生法施行令別表第6の第3号「ケーブル、ガス管その他地下に敷設される物を収容するための暗きょ、マンホール又はピットの内部」に該当し、事業者が同場所における作業を行うにあたっては、酸欠災害防止のため、酸素欠乏症等防止規則に規定する所要の措置を講じなければならない。

原因

[1] 雨水等がピット内にしみ込み、内部で微生物、菌類などが繁殖し、酸素が欠乏したこと。
[2] 事業者に、災害が発生したピット内部が酸素欠乏危険場所であるとの認識がなかったこと。
[3] 作業を開始する前に、ピット内部の酸素濃度の測定を行わず、酸素濃度が18%以下になっていることを確認しなかったこと。
[4] ピット内部を換気せず、作業者に空気呼吸器等を使用させなかったこと。

対策

[1] 酸素欠乏危険作業を行う場合には、測定器具を備え付け、作業を開始する前にピット内の酸素濃度および硫化水素濃度を測定すること。
[2] 上記の測定結果をもとに、作業場の空気中の酸素濃度を常時18%以上に、かつ硫化水素濃度を10ppm以下に保つように必要な換気を行うこと。
[3] 作業の性質上換気することが著しく困難な場合には、空気呼吸器等を備え付け、これを作業者に使用させること。
[4] 第2種酸素欠乏危険作業主任者を選任し、その指揮のもとに作業者に作業を行わせること。
[5] 酸欠作業に就かせる作業者に対し、酸素欠乏の発生の原因、酸素欠乏症を防止するための対策等について、特別の教育を行うこと。

建設中の防火水槽で、練炭を使用した9日後に槽内に入り一酸化炭素中毒

発生状況

災害の発生した工事はコンクリート製の防火水槽を新設する工事であり、工事を受注したS社は設計から施工までを一貫して行っていた。
 防火水槽は地下埋設式で、概ね直方体の形状であり、上部には2ヵ所のマンホール部(取水口)が設けられている。水槽の大きさは縦3.0m、横5.7m、高さ2.5mであり、マンホール部の直径は0.6mであった。
 工事は、[1]水槽新設箇所の掘削、[2]底部の鉄筋の組立、[3]底部のコンクリート打設、[4]側壁及び上部工(天井)の鉄筋及び型枠の組立、[5]側壁及び上部工のコンクリート打設、[6]側壁及び上部工の型枠の解体、という工程で行われた。
 この工事は寒冷地で行われたので、コンクリートが固まるまで凍結防止のための保温養生が必要であった。このため、側壁及び上部工のコンクリート打設後、槽内に練炭コンロを2個置いて燃焼させ、水槽全体にビニールシートを覆いかぶせて養生した。
 打設の翌日及び翌々日は槽外で側壁外部及び上部工外部の型枠の解体作業を行った。
 打設後3日目から8日目までは大雪のため作業は行われず、9日目に作業が再開され、この日の作業は、水槽内部の写真撮影と側壁内部及び上部工内部の型枠の解体であった。
 まず、S社の現場代理人Aが作業者3名とともに防火水槽全体にかぶせてあったビニールシートのうち、上部工部分だけを取り外した。取り外し後、Aは一人でマンホール部から槽内に入り、約3分間かかって型枠の設置状況等の写真を撮影した。撮影後、Aは水槽の外に出たが、撮影中に気分が悪くなったことから、作業者3名に「気を付けて解体作業を行うように。」とだけ告げ、他の用務のため会社事務所に戻った。
 Aが帰社した後、作業者3名は解体作業の手順について打ち合わせをして、3名のうちBとCが槽内で型枠を解体し、解体したパイプサポート等の型枠材を槽外のDがマンホール部から受け取り、現場近くに駐車しておいたダンプカーの荷台に載せることになった。
 BとCが槽内に入ってから7~8分後、Dがダンプカーに型枠材を運び荷台上で整理していた時、槽内から声が聞こえたのでマンホール部に戻り水槽内部をのぞいたところ、うつ伏せに倒れているBとCを発見した。
 発見後、Dは急いで槽内に入り、BとCを一人ずつ順に槽外に救出した。
 災害発生時、防火水槽は上部のマンホール部2ヵ所が開放されているだけで外気による換気はほとんどなかったため、練炭の不完全燃焼により発生した高濃度の一酸化炭素が槽内に滞留していた。なお、工事現場には、送風機等の換気装置及び呼吸用保護具は備えられておらず、また槽内で作業を行うに際して一酸化炭素濃度及び酸素濃度の測定は行われていなかった。

原因

[1] 槽内で練炭が不完全燃焼して一酸化炭素が発生し、これが滞留していたこと。
[2] 工事を監督する責任のある現場代理人が、自ら気分が悪くなったことにより槽内の危険性を察知していたにも関わらず、槽内の換気、呼吸用保護具の使用の指示等の安全のための措置を行うことなく作業者を槽内に立ち入らせたこと。

対策

[1] コンクリートの保温養生には、極力、練炭の使用を避け、電気器具を用いるなど作業方法を改善すること。
[2] 練炭の使用にあたっては、燃焼により発生する一酸化炭素による中毒及び酸素欠乏の危険性について作業者に十分な教育を行うこと。
[3] 水槽内部等の自然換気の不十分な場所で練炭を使用する時には、当該場所を立入禁止とし、その旨を掲示等で作業者に周知すること。
[4] 練炭を使用した場所にやむを得ず作業者を立ち入らせる場合には、事前に十分換気を行い、かつ、一酸化炭素等の濃度を測定すること等により危険のないことを確認するとともに、必要に応じて作業者に適切な呼吸用保護具を使用させること。

養生用練炭による一酸化炭素中毒

発生状況

直径60cmのマンホールが1カ所ついた、内容積約6.8m3のコンクリート製建造物(減圧弁室)の内部で、型枠解体作業をしていた作業者が一酸化炭素中毒になったものである。
 災害の発生した工事は、直径100mmの飲用水管を延長2,296mにわたり埋設し、水圧調節弁が設置される内容積約6.8m3の減圧弁室を2カ所に埋設するものであった。
 減圧弁室は、外寸寸法縦1.9m、横2.9m、高さ2.25mの直方体のほぼ密閉式の建造物であり、すでに、1つ目の減圧弁室の作業は終了していた。災害発生当日の3日前に2つ目の減圧弁室のコンクリート打設作業が行われ、午後4時ごろ、コンクリート養生の目的で減圧弁室内部に練炭を入れた。練炭は2つのコンロに2個ずつ入れ、マンホールから針金でつり下げた。次いで、減圧弁室外側に保温の目的でビニールシートが掛けられた。
 翌々日、外側の型枠が外され、2つの練炭コンロにそれぞれ1個ずつ練炭を補充して、再びビニールシートが掛けられた。
 災害発生当日、被災者ら4名が減圧弁室の内側の型枠解体作業および同室埋設作業にとりかかった。
 午前7時20分ころビニールシートと練炭を取り出したところ、室内に練炭の臭いがしたため、マンホールを開放し、しばらく作業を見合わせた。
 午前8時ころ、被災者は作業指揮者の指示により、室内へ入り作業を開始したが、2~3分たったところで体がだるくなり、頭がボーッとしてきたため、外へ出てしばらく休養した。
 約20分後に、作業指揮者は、減圧弁室下部の配管用の穴の型枠を外して内部の換気をしてから減圧弁室内の型枠解体を行おうと考え、休憩していた被災者に、下部の配管用の穴の型枠の取り外し作業を指示した。被災者はその作業を開始したが、5分ほどたったところで突然倒れた。しかし、顔は青ざめていたものの意識はあり、返答ができた。すぐに会社の車で病院へ運んだところ、一酸化炭素中毒と診断され、休業15日となったものである。
 なお、1つ目の減圧弁室の作業の際には、練炭が燃え尽きてから1週間ほど放置した後に型枠解体を行ったため、一酸化炭素中毒は発生しなかった。

原因

[1] 作業者に対する一酸化炭素についての安全衛生教育が行われておらず、一酸化炭素中毒についての知識が作業者になかったこと。
[2] 作業場所の有害原因(一酸化炭素)を除去せずに作業者を作業させたこと。
[3] 一酸化炭素が滞留している場所で作業者に作業させるにあたり、適切な保護具を使用させなかったこと。

対策

[1] 作業者に対し、一酸化炭素中毒に関する労働衛生教育を行うこと。
[2] 作業場の一酸化炭素を換気により除去してから作業を行わせること。
[3] 防毒マスク等の呼吸用保護具を備え付け、必要に応じて使用させること。